2024.03.11
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ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』

  • 役所広司
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シアターキノで『PERFECT DAYS』を観てきました。この映画はシアターキノの箱感が合うと思って公開を待ちました。帰りは狸小路の居酒屋で余韻に浸りながら、この映画館で観て良かったなと思いました。

上映時間124分の中で、何かが起きるわけでもなく、ただ淡々と主人公平山さんの日常が繰り返されていきます。本当に何度も朝起きて寝て(夢をみて)また朝が来ますが、決められたルーティンから外れないので飽きそうですが、そのルーティンは省くことなく丁寧に繰り返さえて、何かを説明するカットやセリフはほどんどなく、観てる側の受ける印象が少しづつ変わり、あっという間に終わってしまいます。

印象に残るセリフは所々にあれど、ニーナ・シモンの「Feeling Good」が流れるラストシーンに突然襲いかかる深い感動に自分がびっくりしちゃいます。

パンフレットは、音楽、本、トイレやインタビューなど充実な内容

表現したい建築は、この映画の中に。

平山さんが暮らす簡素なアパートや、公衆トイレ清掃の丁寧な仕事ぶりを観ながら「僕がやりたい仕事や、表現したい建築」は正にコレだと思いました。

平山さんには選択肢が与えられていて、自らその日常に身を置いています。自分の求める環境に身を置き、変わらない日常の中で自ら幸福を見出しています。建築=家は、暮らしの器であって、幸福を留める行為なのだと改めて思いました。

平山さんが微笑む見上げる先、見つめる先の様な、木漏れ日の様な建築を表現したい。不惑を超えてキャリアの折り返しに来ましたが、この映画、その中に流れる音楽や本、公衆トイレに至るまで、この年齢で観れた事は本当にラッキーだなと思います。

またインタビューや雑誌を読み漁るにつれて、この映画できる過程にも興味が沸き「この映画のつくり方、すすめ方」も設計者として管理者として、とても勉強になります。

設計者(脚本)としての心の置き方、施工管理者(撮影)として現場の進め方、職人との繋がり方。その全てが整合する素晴らしい映画だと思います。

平山さんに憧れはすれど。偶像としてのパワースポット

チラシに「こんなふうに生きていけたなら」とぽつんと書いてあります。同感はしますが、安易に映画を観た人が思ってはいけないと考えるほど、平山さんの日常はある種の清らかさを感じます。

平山さんの朝は早そうですが、目覚まし時計はなく近所で道を箒で掃く音で目を覚まします。布団をたたみ、読み落ちた本にしおりを挟み、台所で身支度をします。

台所は、自炊する様子はなくてとても簡素です。水は飲まないですが、昼休み中に神社で拝借して育てている新芽に水をあげていきます。玄関前の棚には、お出かけセットが丁寧に並べられてそれらを一つづつポケットに入れます。お昼の予算も1コイン以下です。お弁当は作りません。

外に出ると空を見上げ思わず微笑み、玄関には鍵を掛けずに駐車場の自販機でブラックではなくて(毎日)カフェオレを買います。ぐいっと一口飲むとエンジンをかけて仕事場へ向かいます。大きい通りの直線に入るとカセットテープからお気に入りの音楽をかけます。朝食は毎朝カフェオレですが、カセットは今日の気分に合う音楽を注意深く探します。

仕事場につくと、自前の仕事道具で職人らしく淡々と職務をこなし納得するまで綺麗に磨き上げます。ここでもルーティンは美しく練られ、それを遮る(用足しの)人が来ても空を見上げて微笑み仕事が乱れる事はありません。

お昼は公衆トイレの近くの神社で、コンビニで買ったサンドイッチとコーヒー(ブラックではない)をパクパクとお腹に入れて、空を見上げて木漏れ日の写真を1枚撮ります。カメラはフィルムです。

夕方には仕事が終わり仕事着を脱いで銭湯にチャリンコで向かいます。着いたちょうどに暖簾がかけられて一番風呂を楽しみます。さっぱりするとまたチャリンコで地下鉄駅へ走り、駅ナカの喧騒とした通路の居酒屋で馴染みの晩酌をにありつき、家に返って本を眠くなるまで読んで手元灯を消したら、夢がまどろみ1日が終わります。

これらが平山さんの平日ですが、休日は休日らしく同じ休日が繰り返さえていきます。暮らしの中で、人に会えば挨拶を交わし微笑ましく人を慈しみますが、無口で自分から会話を続けようとはしませんが、平山さんは人が多い喧騒を家以外では好みます。


平山さんは自炊は全くせず、玄関には鍵も掛けず、造形の深い音楽や本や写真はアナログで、時代と少し距離を置いて何かを諦めている感じを受けますが、仕事仲間や銭湯や居酒屋で顔を合わす人など平山さんの事は詳しく知らないけど、信頼して友情を感じているように見えます。

トラブルでルーティンが壊れてイライラしたり色々ありますが、朝が来て空を見上げると思わず笑みが浮かびます。

「何か良いよね」と平山さんの世界の外から評価するのを何故かはばかり、自分も「こうしよう」「こうしなでいよう」と平山さんの事ばかり頭に浮かぶ毎日です。

ヴェンダーズと小津安二郎、役所広司と笠智衆

ニーナ・シモンの『Feeling Good』

Links

  1. PERFECT DAYS公式サイト
  2. THE TOKYO TOILET
  3. 川上未映子さん「あの感覚を、何度でも思いだす」…映画「PERFECT DAYS」の奥深さ熱弁
  4. 「平山という男は、どこから来たのか」ヴィム・ヴェンダース監督ロングインタビュー
  5. 役所広司、演技を語る
  6. @NinaSimone
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